主な退職金制度に、定額制、基本給連動型、別テーブル制、ポイント制があります
第55条 (退職金の額)
1 退職金の額は、退職又は解雇の時の基本給の額に、勤続年数に応じて定めた下表の支給率を乗じた金額とする。2 第9条により休職する期間については、会社の都合による場合を除き、前項の勤続_年数に算入しない。
条文の目的・存在理由
退職金に関する事項は就業規則の相対的必要記載事項であす。したがって退職金制度が会社にある場合は、退職金の額の計算方法も記載は必須です。
上記モデル条文は、退職金の金額が、退職時の基本給に連動する制度であり、勤続5年以上であれば自己都合退職と会社都合退職の差を設けないものになっています(モデル条文第51条 勤続5年未満の労働者には退職金不支給との規定)。
従来は多くの企業に採用されてきたタイプの計算方法ですが、以下の理由により近年では採用しない企業が増えてきています。
・ベースアップなどにより基本給が上昇すれば退職金の額も上昇し、賃金改定の制約要因となる。
・親和性が高い年功序列型の賃金制度を会社が採用しなくなりつつある。
主な退職金の種類と計算方法
・定額制
定額制の退職金は、勤続年数のみを基準に退職金額を決定します。就業規則に勤続年数に応じて退職金額が記載されます。
・基本給連動型 (モデル条文に最も近いタイプ)
基本給連動型の退職金は、退職時の基本給、勤続年数、場合によっては退職理由を基準に退職金額を決定します。
一般的には、以下のような計算式になります。
退職金 = 退職時の基本給 × 支給率 (× 退職事由係数)
*多くの場合、自己都合退職の方が会社都合退職よりも退職事由係数が低く設定されます。
・別テーブル制
退職時の基本給は使用せず、退職金額を計算するための別テーブルに基礎金額を設けるタイプです。
この基礎金額は、役職や等級などに応じて決まります。以下のような計算式になります。
退職金 = 基礎金額(役職・等級などに応じて変動) × 支給率(勤続年数により変動) × 退職事由係数
・ポイント制 (近年多くの企業に採用されています)
ポイント制の退職金は、労働者の在職中の貢献度が反映されやすい仕組みです。
具体的には、在職中の資格、勤続年数、業績への貢献度等を基準に1年ごとにポイントを労働者に付与します。
そして累積されたポイントが退職時の退職金ポイントとなります。以下のような計算式になります。
退職金 = 退職金ポイント × ポイント単価 × 退職事由係数
このポイント制の退職金制度は、在職中の会社への貢献度が退職金に大きく反映されます。
そのため労働市場がかつてより流動化した現代では、中途採用者などの勤続年数が短い労働者にとっても都合が良い制度となり得ます。
近年多くの会社が、人事制度に成果主義的要素を加えるようになっています。
そのこともあって成果主義的人事制度と親和性の高いポイント制の退職金制度が、多く採用されてきているのでしょう。
リスク
条文自体にリスクはありません。しかし、退職金制度の変更を実施する場合は、注意が必要です。
なぜなら、例えば基本給連動型からポイント制への移行は、下記2つの観点から労働者にとっては労働条件の不利益変更に該当するためです。
(これから新たに退職金制度を設ける場合も、後になって支給水準を下げることは難しいことを十分理解した上で、制度設計する必要があります)
・労働者個人への支給額が減少する可能性がある
・将来における退職金の額の見通しやすさが損なわれる
退職金制度の変更をする際には、最高裁判所判決が示した就業規則の不利益変更が認められるための条件が参考になります。
就業規則の不利益変更が認められるための要件
下記の7項目を総合的に考慮して就業規則の変更の合理性を判断されます。
第四銀行事件判決(最高裁判所第二小法廷 平9年2月28日)を参考に作成
①就業規則変更によって労働者が被る不利益の程度
②使用者側の変更の必要性の内容・程度
③変更後の就業規則の内容自体の相当性
④代償措置その他関連する労働条件の改善状況
⑤労働組合等との交渉の経緯
⑥他の労働組合や従業員の対応
⑦同種事項におけるわが国社会における一般的状況等
なお不利益変更に労働者が合意した場合は、変更の合理性は問われないというのが一般的な考え方です。
しかしその際には、押印などの形式的な労働者の同意だけでは足りません。
不利益の内容や程度、同意に至るまでの経緯や態様、同意を得る前に使用者が十分な情報提供と説明を行っているか等が考慮されなければならないとされています(山梨県信用組合事件 最高裁判所第二小法廷 平成28年2月19日)。
改善案
改善案はありません。
参考判例
学校法人早稲田大阪学園事件 大阪地判 平28年10月25日
事件概要
上記学校法人Yは、解散もあり得る程度に財務状況が悪化しており、生徒が増加する見込みも低かった。
そのため、役員数の削減、役員報酬の減額、一時的な昇給停止、賃金制度改革、希望退職者の募集などを組合側に説明した。
組合側との交渉を重ねた後、学校法人Yは就業規則を変更し、新人事制度を導入した。
その結果基本給の額が減額となったため、経過措置はあるものの退職金が減額となる者が出た。
教職員Xら5名(原告)は、就業規則の変更により減額となった退職金額の支払等を求めて提訴した。
就業規則との関係において
上記就業規則変更により、退職金額が270万円〜424万円の減額(割合でみると84.5%〜89.6%の支給率)となり、不利益の程度は大きいものでした。
しかし、判決では今回の就業規則の不利益変更をは、合理的で認められると判断しました。
判断の主な理由は下記の通りです。
- 経営悪化による財務状況悪化は明らかで、賃金体系等の抜本的改革が急務であった(不利益変更を行う高度の必要性があった)。
- 以下のような激変緩和措置が設けられていた(代償措置が設けられている)
①基本給総額が5%以上減額となる者については、3年間は95%を補償する。
②学内における資格を設け、資格取得により基本給の減額を抑える仕組みを導入
③新人事制度導入前に退職したと仮定した場合の退職金と、新人事制度導入後の退職金とを比べて高い方の金額を支給する。 - 退職金の支給率および基礎となる基本給の額は、大阪府という同一地域内において高いものとなっている(変更後の就業規則の内容自体の相当性が認められる)。
- 就業規則変更の約7年2か月前から教職員組合側に説明していた。また、就業規則変更約1年前には、人事制度改革に関する個別相談窓口を設けていた(拙速な就業規則変更ではなく、労働者や教職員組合への配慮も認められる)。
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