第9章 無期労働契約への転換 第57条 無期労働契約への転換

無期労働契約転換ルール(改正労働契約法第18条)は、期間の定めのある(=有期雇用)全ての雇用形態の労働者が対象になります

第57条 (無期労働契約への転換) 

1 期間の定めのある労働契約(有期労働契約)で雇用する従業員のうち、通算契約期間が5年を超える従業員は、別に定める様式で申込むことにより、現在締結している有期労働契約の契約期間の末日の翌日から、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)での雇用に転換することができる。 

2 前項の通算契約期間は、平成25年4月1日以降に開始する有期労働契約の契約期間を通算するものとする。ただし、契約期間満了に伴う退職等により、労働契約が締結されていない期間が連続して6ヶ月以上ある従業員については、それ以前の契約期間は通算契約期間に含めない。 

3 この規則に定める労働条件は、第1項の規定により無期労働契約での雇用に転換した後も引き続き適用する。ただし、無期労働契約へ転換した時の年齢が、第49条に規定する定年年齢を超えていた場合は、当該従業員に係る定年は、満_歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする

この無期労働契約への転換ルールを理解することは、法令違反のリスクを避けるためだけでなく、有効な人材活用のためにも重要です。
厚生労働省が『有期労働者の無期転換ポータルサイト』を設けているので活用することをお勧めいたします。

https://muki.mhlw.go.jp/ 『有期労働者の無期転換ポータルサイト』

条文の目的・存在理由

改正労働契約法第18条(平成25年4月1日施行)にある無期労働契約転換ルールを就業規則に明記したものです。
パートタイマーやアルバイトなどの呼称に関係なく、期間の定めのある(=有期雇用)全ての雇用形態の労働者が対象になります。

無期転換ルールを就業規則に記載することは、法的義務ではありません。
しかし無期転換後に労働条件が変更される場合は、その旨が就業規則に記載されている必要があります。
したがって有期労働者が働いている会社は実務上、有期労働者に対して適用される就業規則に記載しておく必要がある条文と言えます。

この無期転換ルールの趣旨は、期間の定めのある労働者の雇い止めの不安を解消し、彼らが安心して働き続けられるようにすることです。
このルールを端的にいうと、下記の通りです。

同一の使用者との間で、有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された場合、労働者の申込みにより強制的に無期労働契約に転換される。

無期転換ルール
『労働契約法改正のポイント』(厚生労働省作成)より引用 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/h240829-01.pdf

無期労働契約転換ルールの重要なポイント

・有期雇用から無期雇用への転換だけを求めています。すなわち、期間の定め以外の労働条件までを、フルタイムで働く正社員などと同一にする必要はないということです(別ルールである同一労働同一賃金の原則の観点から、均等待遇に一切配慮しなくて良いということではありません)。

無期転換申込ができるのは、契約期間5年経過後ではありません。契約期間が5年を経過していなくても、例えば契約期間が3年の有期労働契約を更新した場合、 通算契約期間が6年になるため、4年目に無期転換申込権が発生しています。

・上記図で説明されている通り、別段の定めをすることにより、期間の定め以外の労働条件を変更することも可能です。期間の定め以外の労働条件を変更するか否かに関わらず、無期転換後の労働者に対して、従来の正社員などの雇用形態と異なる点を労働者に丁寧に説明する必要があります。さらに、どの就業規則が適用されるかをはっきりさせておくことが極めて重要です。下記リスクの項目を参照下さい。

・会社の定年を超えた後に、無期転換に至った労働者の扱いを明確にさせることが重要です(上記モデル条文第3項)。定年を60歳に定めている会社において、60歳超で無期転換となった場合、定年がなくなるということが起きえます。従ってモデル条文のように無期転換後の新たな定年を設定するか、上記「継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例」を利用する必要があります。

無期転換ルールに関する補足

*平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約が通算5年を超えることが条件です。
平成25年3月31日以前に開始した有期労働契約は通算契約期間に含まれせん。
また平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約であっても、通算契約期間に含めなくて良いクーリング制度があります。(上記モデル条文第2項)


『労働契約法改正のポイント』(厚生労働省作成)より引用 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/h240829-01.pdf

*高度専門職・継続雇用の高齢者に関しては、無期転換ルールの特例があります。詳細は下記厚生労働省作成パンフレットをご覧ください。

『高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000075676.pdf

リスク 

上記モデル条文は、無期転換後も期間の定め以外の労働条件は変わらないことを明記しており、内容自体にリスクはありません。

しかし、従来の正社員等との労働条件の違いが、無期転換後の労働者に明確に理解されていないとトラブルが発生する可能性が高くなります。
例えば、無期転換後の労働者には退職金は支給しないつもりで会社がいたとしても、労働者が無期転換後に正社員と同様に退職金が支給されると誤解してしまうこともあるかもしれません。

下記は『有期労働者の無期転換ポータルサイト』で示されている無期転換制度導入の流れです。
より詳細な説明は、

厚生労働省作成 「事業主・人事労務担当者向け導入のポイント」 https://muki.mhlw.go.jp/business/point/

に示されています。

https://muki.mhlw.go.jp/ 厚生労働省作成『有期労働者の無期転換ポータルサイト』より引用

改善案

改善案はありません。しかし、前述の通り非常に重要なルールであるため、

①無期転換される労働者にどの就業規則が適用されるのか?
②適用される就業規則の内容(労働条件や退職金の有無など)は問題ないか?

を入念にチェックする必要があります。

参考判例

高知県立大学法人事件 高知地判 令和2年3月17日

事件概要

平成25年11月1日に労働者A(原告)は、大学(被告)との間で、期間の定めのある労働契約(1回目)を締結していた。
しかし、契約更新は3回行われただけで、平成30年4月1日以降、当該労働契約の更新が行われなかった(平成30年4月1日以降は労働契約が存在しないということです)。

そのため労働者Aは、

①本来であれば労働契約法第19条に基づき労働契約が更新されるべきであった。
②労働契約が更新されることで通算契約期間も5年を超えていたはずだった。
③従って労働契約法18条1項に基づいて、期間の定めのない労働契約に転換していた。(無期転換ルールの適用)

などと主張し、大学に対して、労働者Aが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めて提訴した事件。

就業規則との関係において

この裁判では労働者A(原告)の主張が認められることになりました。
そして、大学が契約更新を行わなかったことについて、判決では下記のように述べています。*は筆者が加筆。

「雇用契約が更新されるとの合理的な期待が認められるにもかかわらず、同条同項(*労働契約法第18条)が適用される直前に雇止めを行うという法を潜脱するかのような雇止めを是認することはできない。」

上記判断に至った論理

今回の事件の労働契約(以下本件労働契約という)は、労働契約法第19条2号に該当する。
したがって第19条にある
「使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。」
の通り、平成30年4月1日以降の労働契約は更新されることになる。

*労働契約法第19条の概要
期間の定めのある労働契約が、反復更新されることにより、
・期間の定めのない労働契約と実質的に同じ状態にある(1号)。
あるいは
・契約期間満了後も雇用継続されることにいて合理的期待が認められる(2号)。
場合の規定です。
このような場合に、雇止めが客観的に合理的な理由を欠いて、社会通念上相当と認められない時は、労働者の申し込みにより、期間の定めのある労働契約が更新されたものとみなされると規定しています。

判断根拠
・国から補助金を得て実施されるプロジェクト(平成31年3月31日終了予定であり、途中で終了することは想定されていないものであった)に携わることが労働者Aの業務であった。更に大学側から招へいされて参加していた。そのため労働契約締結時に本件プロジェクトが終了する平成31年3月31日まで雇用が継続されると期待したことには、合理的な理由がある。


・6年間の雇用継続は約束する旨の大学側の提案や、本件労働契約締結時に交付された労働条件通知書には契約を更新する場合があると明記されていたこと等から、一番最初の労働契約が締結された平成25年11月1日時点で、Xは、本件労働契約は契約期間満了時に更新され、本件プロジェクトが終了する平成31年3月31日まで雇用が継続する期待を抱いていたと認められる。

・実際にプロジェクト期間中3回にわたって契約が更新されたこと、平成30年4月1日以降も本件プロジェクトが実施されることが決定していた。そのため労働者Aは本件労働契約の契約期間が満了する平成30年3月31日の時点において、労働契約が更新され、大学において勤務を継続できる旨の期待を抱いていたといえる。

本件雇止めは認められない。

判断理由
本件雇止めに関して労働者に責任はない。
したがって本件雇止めが合法となるためには、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当であるといえる必要がある。

そしてその判断する際には、

「無期労働契約との差異を十分に踏まえつつ、整理解雇の場合に準じて、①人員削減の必要性、②雇止め回避努力、③人選の合理性および④手続きの相当性の各事情を総合的に考慮して判断する必要がある。これに加えて、本件雇止めがなされた時期が、雇止めがなされなければ、労働契約法18条1項に基づいて有期労働契約が期間の定めのない契約へ転換しうる時期にあったことも踏まえて検討する必要がある。」

そして、上記①〜③の基準と無期転換ルールが適用される時期について、具体的検討がなされ、下記のように述べています。

「本件プロジェクトが終了する前の段階でXを雇止めにしなければならない客観的な理由や社会通念上の相当性があったのかは疑問であり、他の方法もあったといえる。さらに、本件雇止めの時期に鑑みると労働契約法18条1項による転換を強く意識していたものと推認できる。」

③本件労働契約は、平成30年4月1日から平成31年3月31日の期間も、第3回更新後の本件労働契約の労働条件と同一の労働条件で更新されたものと認められる。

*平成30年4月1日以降、無期転換ルールが適用されるための要件である労働者側からの申し出はありません。
しかし、申し出がなかったのは本件雇止めを受けたためです。
労働者Aが今回の訴訟を提起し、労働契約法18条1項による転換に関しても言及していることから、遅くとも平成31年3月31日までの間に上記意思は表示されたと認められました。

本件労働契約について4回目の更新がなされたことにより労働者Aの通算契約期間は約5年5か月になる。
したがって、労働契約法第18条1項により、労働者Aに対し無期転換ルールが適用される。
そして労働者Aは、労働契約上の権利を有する地位にあると認められる。

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